ファミリーコンステレーション ー平和への祈りー 出版のお知らせ

このたび、ファミリーコンステレーションの創始者ヘリンガー夫妻の新著の日本語訳『ファミリーコンステレーションー平和への祈りー』が出版されました。

一般書店でご注文される場合は、以下の書籍名とISBNをお伝えください。

 

Amazon.co.jpのページより:

 

ファミリーコンステレーション ―平和への祈り―

 

  • 著者:バート・ヘリンガー、ソフィー・ヘリンガー
  • 訳者:井上 慎介
  • 出版社: 出版研究センター (2017/12/8)
  • 言語: 日本語
  • ISBN-10: 4915085171
  • ISBN-13: 978-4915085178
  • オンデマンド (ペーパーバック):138ページ
  • 発売日: 2017/12/8
  • 価格:¥1,620

 

内容紹介

 

 元カトリック司祭・哲学者・心理療法家である著者のバート・ヘリンガー氏によって体系的に確立されたファミリーコンステレーション。

 

 心理療法の一手法として世界的に知られているが、近年その方向性に修正が加えられ、従来の心理療法が対象としていた個人の領域を超えたより集合的な問題、そして私たち人類に共通する根源的な"いのち"というテーマに向き合う包括的なアプローチとして大きな発展を遂げた。

 

 本書では、司法や教育の分野における活用例、また国家間の紛争解決への試み、平和への奉仕として世界各地で行なわれているその「新しいファミリーコンステレーション」について、臨場感豊かなドキュメンタリーとして綴られている。 


訳者まえがき

 

 モーツァルト生誕の地として有名なオーストリアのザルツブルグ、そこから国境を跨いでドイツ側へ入るとほどなくして、塩の産地としても世界的に有名なバート・ライヘンハルという温泉保養地があります。人口一万七千人程のその小さな街では毎年、ファミリーコンステレーションの創始者であるバート・ヘリンガーとソフィー・ヘリンガー夫妻の元に四〇を越える国から数百もの参加者が集まり、国際的なファミリーコンステレーションの集いである「インターナショナル・ヘリンガーDays」が行なわれています。二〇一五年の五月、世界各国から集った参加者たちの多様なエネルギーが入り交じるその会場で、私はいくつもの〈言葉を交えない静かな〉コンステレーションを体験していました。

 

 コンステレーションとはラテン語を起源とする〈星の集まり=星座〉という意味の言葉ですが、ここでは「家族や家系、組織やコミュニティー、国家などの〈人の集まり〉の中の関係性を観察するためのアプローチ」という意味で使われています。

 

 このアプローチは、ドイツ人の元カトリック司祭、哲学者、心理療法家であるバート・ヘリンガー氏(以下、バート)によって体系的に確立され、主にサイコセラピー(心理療法)の一手法としてヨーロッパを中心に世界中で広く利用されてきました。日本へは一九九〇年代半ば頃から「家族の座」という名前で紹介され始め、二〇〇一年にバートが来日して初めてワークショップが開催されて以来、ファミリーコンステレーションという名前の心理療法として知られるようになりました。しかしその後、ソフィー夫人(以下、ソフィー)による重要ないくつもの洞察によってアプローチ自体の方向性に修正が加えられ、ヘリンガー夫妻の共同研究によって更なる大きな発展を遂げました。その結果、それを心理療法の枠組みの中で行なっていくことに限界があること、また心理療法における一般的な認識と対立する方向性をも包含することが認識されるようになり、現在では私たちを取り巻くすべての関係性に対する独立した探求的アプローチ、新たな学問的分野としてHellinger Scienciaと呼ばれる体系の中に置かれています。また一般的には現在ヘリンガー夫妻の行なっているアプローチは「新しいファミリーコンステレーション」と呼ばれ、以前の心理療法として行なわれていたものとは明確に区別されています。

 

 この「新しいファミリーコンステレーション」はグループで行なわれるものですが、規模としては数人程度から、時には千人を越える大きなグループで行なわれることもあります。参加者の中からその場で選ばれた人(以下、クライエント)の提起する悩みや身体的症状、職業上の困難などの問題について、その背景にある人間関係に目を向けます。但しその方法は一風変わっていて、クライエントが属する家族や組織の人々の〈代理人〉を、本人とは無関係の参加者の中からファシリテーターが無作為に選びだし、舞台の上に配置します。代理人として舞台に立った人たちは何も意図を持たずに、ただ身体の中で感じられる内面的な感覚に従うよう指示されます。すると不思議なことに、彼らが代理する家族や組織のメンバーの情報はまったく知らされていないにも拘らず、代理人たちはそのメンバーの内面的感覚や感情、身体的症状までも感じ始め、時に動き出すのです。これらの代理人たちが表現する感覚や動きは、彼らが代理する本人の実際の状態をかなり正確に示していることがファミリーコンステレーションの歴史の中で経験的に裏付けられており、多くの場合クライエント自身によっても事実であることが確認されます。これはつまり、それまでクライエント本人や代理人によって代理される人たちの主観としてしか経験されることのなかった〈内的現実〉を、客観的に誰にでも見える形で観測できるという可能性を示します。ファミリーコンステレーションでは、このような代理人の身体表現によって映し出される各人の〈内的現実〉を基に人間関係を見ることで、その家族や組織の中で実際にどのような内的(心理的)力動が働いているのかを観察し、その成り行きを見極めることができるのです。

 

 更に、このアプローチは個人的な問題と見做されている多くのことの背景に、実際にはその周囲の人々との密接な関係が影響しているという構図を目に見える形で提示する性質を持つために、現在では個人的な問題だけでなく組織内の人間関係や国家間の国民感情に関わる集合的な問題の解決といった分野でも成果を上げています。

 

 例えば冒頭のインターナショナル・ヘリンガーDaysで一番始めに行われたコンステレーションでは、この本の本編でも紹介されているアルメニアとトルコの関係が映し出されました。私は恥ずかしながらアルメニアとトルコの間で何が起こったのかを全く知らずに、自分には関係ないテーマだと思い、その場から切り離された気持ちでいました。その間にもコンステレーションは動いてゆき、ある瞬間急に自分の意識が呼び戻されるのを感じました。そのすぐ後に、バートが唐突に言葉を発しました。

 

「You too...(あなたも...)」

 

 その時初めて私は自分にとっての、そのコンステレーションの意味がわかりました。コンステレーションの中ではある男性が一人だけ孤立して立っていて、バートの言葉はその人に対して向けられた言葉だということは、状況的に理解できました。しかし実際にはそれが私自身に向けて発せられた言葉のように感じられ、「自分には関係ない」と感じていた気持ちが、実はその孤立していた人の気持ちだったということに気づいたのです。その感覚は私にとってとても馴染み深いもので、日本にいる間にもよく感じている感覚だということを思い出しました。そしてそのバートの言葉を聞いた瞬間、私はとても救われた気持ちになり、自分がその感覚を今まで感じてきた理由がわかりました。自分の中にも、その孤立し輪の中に入れない感覚を持つ部分があり、実は私がその言葉をその部分に言ってあげたかった、つまり自分自身の中の〈その人〉に、そのたった二つの単語を言う機会を探し求めてドイツまで足を運んだのだ、ということを感じたのです。それは私にとって初めて、世界に住む他の多くの人々と自分の心が繋がっているということを実感した瞬間でした。それは、あたかも〈私たち〉という存在そのものを映し出す鏡のように、自分とその場に参加しているすべての人々がそれまで個別に〈内的現実〉として触れていた世界を、連なった一つの営みとして私たちに体験させるのです。

 

 この数日後、同じインターナショナル・ヘリンガーDaysの期間中に、私はバートに手を引かれて呼び止められました。彼は私の手を取りながら7月にロシアのイルクーツクへ行く予定だということを語った後、「その後に日本へ行くから、あなたがすべてやりなさい」と言ったのです。それは、バートが九年ぶりに来日して、この新しいファミリーコンステレーションのワークショップをするという意味でした。

 

 私が初めてヘリンガー夫妻と出会ったのは、二〇一一年に香港で行なわれたワークショップでした。二五〇人程の中国語圏からの参加者の中で、たった一人の日本人だったにもかかわらず、幸運にも選ばれてヘリンガー夫妻の間に座る機会を得ました。そこで自分の抱えてきた問題についてのコンステレーションが開かれたのですが、それは文字通り私の人生を変えた衝撃の体験となりました。それ以来、ドイツ、スペイン、イタリア、ベルギー、ロシア、メキシコ、中国、台湾と、ヘリンガー夫妻の行く先々へ着いてゆき学びを深める中で、折に触れて日本へ来てくれるようにお願いしていました。その念願が、唐突にこのような形で叶うことになるとは思ってもみませんでした。

 

 数ヶ月後の二〇一五年九月に東京で実現したワークショップは、まさにこの本に収められている通りの、世界中の人々が関わる営みの大きなムーブメントの中で起こりました。十四カ国から集まった一七〇人の参加者の中で、私たち日本人にとって未だに大きな影響を及ぼしている二〇一一年の大震災のことも扱われました。バートが九年前に来日した時とは違った意味でもたらされた「新しいファミリーコンステレーション」が、日本で初めて開かれたのです。それは、もはや個人的な問題を扱う心理療法という領域を、遥かに越えています。集合的な〈私たち〉といういのち・・・の営みとの調和を取り戻すことで、日常で直面する葛藤や対立、分断を乗り越えて手を取り合い、誰もが平和で健やかに暮らしていけるようになるためのアプローチなのです。

 

 この本を通して

 

「You too...(あなたも...)」

 

 このムーブメントに招待されています。

 

二〇一七年七月

                                  訳者  井上 慎介