東京ワークショップ2015を終えて

皆様、

 

 先日は、ヘリンガー夫妻にとって9年ぶりの来日となった『新しいファミリーコンステレーション 東京ワークショップ2015』にご参加くださり、ありがとうございました。


 この3日間で13カ国から170名の参加者の方たちが集まる中、数々のワークが行われました。ファミリーコンステレーションが初めてだった方にも、以前のファミリーコンステレーションをご存知の方にとっても、今までに経験したことのない、全く新しい体験があったのではないかと思います。



《日本にとって初めての、新しいファミリーコンステレーション》

  私にとっての初めての体験は今から4年前、2011年の7月に香港で行われたワークショップでヘリンガー夫妻に初めてお会いした時でした。約250人の、主に中国語圏からの参加者たちの中で唯一人の日本人として手を挙げ、幸運にも自分自身のコンステレーションを体験することができました。私はその時すでに日本でファミリーコンステレーションのトレーニングを受けていて、それがどういうものなのかを知ったつもりでいました。しかしヘリンガー夫妻の間に座った瞬間から、それが今まで自分の体験してきたものとは全く違うものだということに気付いたのです。

 

 そのコンステレーションの中で代理人たちの動きによって現れてきたものは、私の祖父が戦争中に兵士としてフィリピンで体験したことでした。しかしその光景の中に、私自身が人生の中で体験してきた感覚全てが再現されていて、まるで心を映し出す鏡を見ているようでした。そしてヘリンガー夫妻は、それをただありのまま言葉にして説明してくれたのですが、私にとって全てをありのままに受け取るのには、しばらく時間がかかりました。

 

 そんな中、自身のコンステレーションでの体験や、初めて出会った新しいファミリーコンステレーションをなんとか理解して自分のものにしようと思い、そのワークショップのDVDの翻訳に取りかかったのです。当時は英語もままならず翻訳も初めてだった私にとって、その作業はとても困難なものでした。途中で投げ出しそうになることが何度もありましたが、ドイツを始め世界中で行われるヘリンガー夫妻のワークショップに足を運び、その都度暖かい助言を頂きながら学びを深めていきました。


 そして完成した最初の日本語字幕付きDVDが、アナロジッククリエーションのホームページで販売している以下の2タイトルです。私自身が初めて体験した新しいファミリーコンステレーションも、その一部始終が『ビジネスと職業における成功への道』のDisc2に収録されています。

【ファミリーコンステレーション 健康への道】《日本語字幕付きDVD・6枚組》

 

【ファミリーコンステレーション ビジネスと職業における成功への道】《日本語字幕付きDVD・4枚組》

 

 

《新しいファミリーコンステレーションで私たちが体験したこと》

  さて、この新しいファミリーコンステレーションにおいて私たちが体験できたものとは、何だったのでしょうか? 今回のワークショップの冒頭でソフィーはこう言っていました。

 

So what we could see?

私たちは、何を見ることができたのでしょうか?

 

Nothing is lost.

失われるものは、何もありません。

 

And nothing is over.

そして終わるものも、何もありません。

 

Everything what happened before, it's still here.

以前に起こったことは、今でもまだここにあります。

 

So we are our whole story.

ですから、私たちは私たち全体としての物語(そのもの)なのです。

 

 これはイギリスの著名な生化学者ルパート・シェルドレイクの言っていた、モルフォジェネティック・フィールド(形態形成場)という概念にも通じます。彼はファミリーコンステレーションのワークショップに招待され、見ず知らずの代理人たちによってさまざまな出来事に光が当てられていくのを実際に目撃しました。そして驚きとともに、彼の示唆した形態形成場というフィールド(場)がコンステレーションの中で代理人たちに作用しているのであろうと言及したのです。

 

 この形態形成場とは、今までに起こった全ての出来事が刻まれ、全てが積み重なった記憶として私たちには見ることのできない別の次元を介して作用しているフィールドで、ちょうど磁力が見えない磁場(マグネティック・フィールド)を介して離れたところにある物体に作用するのと同じように、私たちの意識に作用するものです。そして私たちの心臓を動かしたり、細胞一つ一つの発生や分化といった生命現象そのものをも司るとされています。またコンステレーションの中に代理人を配置した時に、誰もが見ず知らずの人の感覚を感じることができるという現象を、“形の共鳴”という概念でも説明しています。

 

 つまり、今回の東京ワークショップで参加者が体験した通り、私たちの歴史の中で過去に起こったことは何一つ欠けることなく、今でもここに存在しているということです。誰も語らず、書き記されていなかったとしても、過去に起こったことを無かったことにはできません。私たちの目には見えなかったとしても、私たちの身体は感じ取っているからです。それを見ないようにしていたり、無かったことにしていると、やがて身体の感覚は麻痺してきます。そして私たちの物理的な身体の機能もそれによって停滞し、病気や機能不全の原因になります。例え一時的に私たち自身がその麻痺した状態を持ちこたえたとしても、今度は私たちの家族や社会の中のより敏感な誰か、多くの場合子どもたちがその除外された “無かった筈のこと” を表し始めるのです。

 

 ですから、私たちが全ての感覚に開いた状態で健やかに生き、そして次の世代に生命を引き継いで活気あふれる未来を残すために出来ること、それは “ただありのままに認める” ということなのです。これは日本語で初めて出版されたバート・ヘリンガーの著書「ファミリー・コンステレーション創始者バート・ヘリンガーの脱サイコセラピー論」の原題、『Acknowledging what is(ただありのままに認める)』 という姿勢そのものです。この本は現在絶版となっていますが、今回の東京ワークショップの開催にあたってもご協力いただいた訳者の西澤起代さんによって再出版が予定されています。発売が決まり次第ご連絡いたしますので、ご期待ください。

 

 

《ただありのままに認める ーAcknowledging what isー》

 しかし今日において、この “ただありのままに認める” ということは多くの人にとって馴染みがなく、困難なことに映ります。例えば、善悪の判断を脇に置いて70年前の戦争中に起こったことをありのままに認めるのは、難しいと感じるでしょう。戦争中には多く人の生死を分ける出来事が起こり、私たちの家系の中の誰かが何らかの形で、それに巻き込まれているからです。そしてその出来事が殺人であった場合、今日の私たちが持ち合わせている意識、良心(Conscience)というフィルターを通してその出来事を捉えようとすると必然的に加害者と被害者という構図が現れ、そのどちらか一方にしか共鳴できなくなります。そういったフィールドでは、ある者は非人間的な扱われ方に苦しみ憤るという感覚だけを感じ、またある者は相手の痛みに無感覚な狂気と優越という感覚だけを感じます。どちらも見ないようにして両方とも感じないようにする(麻痺させる)ことはできるかもしれませんが、両方の苦しみや困難を同時に感じながらどちらにも偏らずにありのままに認めるということは、その出来事の当事者のいる家族フィールド(家系というシステム)に属する者にとっては、とても難しいことです。

 

 そして先の戦争のような、その時代に生きた私たちの先祖のほとんどが関わっている出来事においては、国家として良心体系を共有するフィールドに属する限り誰一人としてその構図から逃れる術を持ちません。そしてそのどちらかの感覚に無意識で共鳴したまま今日の家庭や社会の中で私たちが生きていこうとすると、ちょうど磁石のN極が他の磁石のS極を引き寄せるのと同じように、関わる相手は自分と対立する側に共鳴することになります。その対立構造は何も物理的な暴力や殺人といった実際に生死を分ける場面だけに限らず、親子間や夫婦間での葛藤、学級でのいじめや非行、差別や過度に優劣を競い合う風潮など、共鳴の度合いによって私たちの家族関係や社会の中の人間関係のあらゆる場面で分断を作り出すという形で反映されます。これは私自身が家庭や学校で葛藤を抱え13歳の時に不登校になって以降社会から退くに至った経験を、香港で体験したコンステレーションに照らし合わせた結果感じたことです。私はコンステレーションの中で、戦争中のある出来事における被害者の側にずっと寄り添っていたのですが、それは私がそれまでの人生で常に体験していた被害者の感覚をありのままに表していたのです。

 

 

《今、ここにあるもの》

 バートは4年前のその時、私のコンステレーションの中で見られるその加害者と被害者の対立構造は、日本人全てに共通する大きな問題であると言及しました。確かに戦争のように国家という集合的意識の決定によって起こった出来事の帰結は、その意識のフィールドに属する全ての人に共通して関わってくる問題です。ですから私たちがその国家に属する限り、そのフィールドに存在する対立構造を乗り越えるという作業は、皆で集合的に取り組んでいかなければならいのかもしれません。

 

 また “戦争” という名前が付いている出来事だけでなく、今回の東京ワークショップで開かれた数々のコンステレーションを通して私たちは、見ず知らずの人の提起する名もない問題に対して、多くの人たちが共鳴しているという事実を体験しました。国籍もさまざまな参加者たちが代理人として、また観察者として、それぞれが同じ一つの出来事の当事者として共鳴していました。これはつまり、過去の同じ出来事を共有していたから可能だったわけではないことを示しています。その共鳴をもたらすフィールドが、誰にでも感じられる形で今ここに存在しているということを証明しているのです。この事実は、もはや私たちの身の回りで起こる問題が、まるで個人の所有物のように切り分けられるものではないことを意味しています。

 

 しかし私たちは今まで、そのような集合的な問題に対してアプローチする術を持ち合わせていたでしょうか? このような共通したフィールドにおける連鎖した問題が背後にあるにも拘らず、それをクライエント個人の問題として個別に働きかけることに、意味があるのでしょうか? 同じフィールドに属する繋がった磁石の中の一つを無理矢理ひっくり返そうとしても、すぐに元に戻そうとする力が働いて戻ってしまうのは想像に難くありません。

 

 この問いに対する示唆を、最終日のワークの中でソフィーが与えてくれています。

 

It is a mistake to believe that there is something purely personal.

何か純粋に個人的なものがあると信じるのは間違いです。

 

What is personal is resolved in what is collective.

個人的なものは、集合的なものの中で解決されてゆきます。

 

And in the end, what always wins is, what always gain upper hand is collective consciousness.

そして最終的に、常に勝るもの、常に上回るものは集合的な意識です。

 

For this reason, a catastrophe or an attack in one country is never something that only involves that country, that only involves these people, that only one sole nation is involved, that can never be the case.

ですから一つの国で起こる災害や攻撃が、その国だけに関わること、その人たちだけに関わること、ただ一つの民族にだけ関係しているということは、決してありません。

 

Through family constellations, we can see that this network of reconciliation spreads all over the world.

ファミリーコンステレーションを通して、私たちはこの和解のネットワークが世界中に広がって行くのを見ることができます。

 

Because behind that there is the collective movement.

なぜならその背後には、集合的なムーブメントがあるからです。

 

And that collective movement is always directed towards the unity.

その集合的なムーブメントは、つねに和合へ向かっています。

 

 

《平和のムーブメント》

 このソフィーの言葉の通り、私たちは今回のワークショップで多くの和解を目撃し、また体験しました。それらは私たちの言語による理解を超えたレベルで、どこからともなく起こりました。その間私たちは何も知らずにただその場に居合わせ、そして我を忘れて目の前の出来事に意識を向けていたのです。しかしだからこそ、性別や国籍、生きている時代や持ち合わせる信念といった私たちの個人的な枠組みを超え、集合的な問題に解決がもたらされたのかもしれません。さまざまな背景を持つ参加者のフィールドが交差し入り乱れる中では、私たちは皆、生まれ育った馴染みのあるフィールドから一度旅立たつことになるからです。しかしその結果、明らかに以前とは違った新しいネットワークが、私たちの間に生まれました。今回のワークショップで生まれたこのネットワークは、そういった多様性と国際性を包容するフィールドから生まれたオープンで自由なものです。これは私たちの未来やこれからの日本、そして世界にとっても大きな意味があるのではないかと思っています。

 

 新しいファミリーコンステレーションは、このように多くの人に共通して影響を及ぼしている問題に対して根源的に解決をもたらし、和解に導くアプローチです。そしてそれはその場に集う全ての人の意識が織りなして創り出されます。何か紙に書いてある理論や情報を元にあるべき方向を探るのではなく、その都度その場で起こってくる現象をありのままに見つめることによって、そこから自ずと現れてくる集合的な解決を皆で受け取るのです。フィールドは理解によってではなく、このように私たちの肉体を通した体験によって上書きされていきます...それが、今までもそうであったように。

 

 つまり最終日にバートが言ったように、これは皆で創り上げる平和のムーブメントなのです。今回ドイツから来日したヘリンガー夫妻を始め、ロシア、イタリア、ブルガリア、マレーシア、シンガポール、中国、香港、台湾、韓国、ブラジル、ペルーから集まった参加者とスタッフ、そして私たち日本人が共に創り上げたこのネットワークを、今度はまた世界へ向けて繋げていくことができるならば、この平和のムーブメントをより広げていくことができます。

 

 

《橋を架けること》

 ファミリーコンステレーションのファシリテーターの役割は “橋を架けること” とソフィーが言っていました。私もファシリテーターの一人として日本と世界の間に、この平和のムーブメントを繋ぐための橋を架けたいとの思いで、今回の東京ワークショップを主催しました。そしてすでにお知らせしている通り、来月10月29日からドイツのバート・ライヒェンハルでインターナショナルHellinger®Daysが開催されます。インターナショナルHellinger®Daysでは、実に45カ国から数百人の参加者が集まり、さまざまなフィールドが交差する中でコンステレーションが行われます。ですから私が香港で受けたコンステレーションのように、日本のフィールドでは取り扱うことができなかった日本の重要な問題についても、さまざまな国籍の人たちが集う中で扱うことが可能になるかもしれません。二度の世界規模の戦争を経て、世界的に人や物の流通が盛んになった現代において、和解と平和への鍵は自分の国の中だけにあるとは限りません。いろいろな障害を乗り越えて海外へ足を運ぶことが、内なる平和を魂に取り戻すことになるかもしれないのです。

 

 今年90歳になるバートは、ソフィーと共に今でも世界各地を巡ってワークショップをしています。そして行く先々で得た知見や洞察を惜しみなく注ぎ込み、さまざまな地域の多様な民族のフィールドを織り込みながら、日々ファミリーコンステレーションを進化させています。今回主催者としてヘリンガー夫妻の旅に同行させていただいた際も、レストランや街中で人々に暖かい眼差しを向けながら、本当に多くのことを観察していらっしゃいました。私はそうしたお二人の姿を傍で見ていて、新しいファミリーコンステレーションを実践していくということは、丸ごとありのままに世界を抱いていくという姿勢なのだ、ということを実感しました。

 

 そしてこのように文字通りのフィールドワークを経ながら進化してきた新しいファミリーコンステレーションの発展を眺めると、それが世界中の人々の希望を運びながら生き生きと私たちを明るい方へ導いてくれているのを感じます。もちろんその進化の過程には、多くの反省も含まれています。しかしそれらも含めて感謝と共に受け取ることができるなら、私たちはより先へと進むことができるのです。今という時代に、この新しいファミリーコンステレーションを生きたまま私たちが受け取れるということは、とても幸せなことだと思います。

 

 ですので、この機会にヘリンガー夫妻の新しいファミリーコンステレーションをより深く体験したいと思われている方、また私と一緒に日本からの平和のムーブメントを繋ぐ架け橋になっていただける方を募集します。(どなたでも参加可能です。)ご興味のある方は、下記のページより必要事項をご記入の上、お申し込みください。

 

インターナショナルHellinger®Days 2015秋 お申し込みページ

 

 日本語通訳の手配に必要な参加人数を把握するため、まだ参加が確実でない場合でも、ご興味のある方は早急にお申し込みください。正式なお申し込みは、ドイツへ参加費をお支払いただいた時点で完了します。(9月28日現在で、既に9名の方が参加を希望されています。)

 

 

《終に...》

 インターナショナルHellinger®キャンプに、私が初めて参加したのは最初のDVDの翻訳作業の真っただ中、2011年の11月でした。私がその年に香港で出会った中国語圏の人たちも、20名程のグループで来て参加していました。ヘリンガー夫妻はそのキャンプの後でアジアからの参加者を集め、今後のアジアでの新しいファミリーコンステレーションの展開について話しました。私は初めてでまだ何もわからなかったのですが、その中に混ぜてもらっていました。そして帰り際にバートに話しかけ、日本には来てくれないのですか? と尋ねました。その時の私は、自分でワークショップの主催をするなど思ってもいなくて、誰か他の人に招待されて来る予定はないのですか? と聞いたつもりでした。しかしバートは愛嬌のある笑顔を見せながらウインクして、私にこう言ったのです。

 

「Maybe...you could organize my workshop in Japan.」

(君が、日本で私のワークショップを主催してくれてもいいよ)

 

  バートが意味深にウインクしていたこともあって、冗談ではないかと最初は思いました。でもあの笑顔が忘れられなくて、私はその言葉を半分ぐらい信じながら密かな夢として持ち続けていたのです。それから4年間、ドイツ、メキシコ、香港、スペイン、イタリア、ロシアとヘリンガー夫妻の世界を巡る旅に同行するようになり、学びを深めている間に私自身もさまざまな変化を経験しました。そして今回、4年越しの夢が叶って東京でのワークショップを主催させていただくことになったのです。

 

 今回、ヘリンガー夫妻の新しいファミリーコンステレーションを日本の皆さまにご紹介できたこと、また皆さまと平和のムーブメントを共に体験できたことは、私の今までの人生で最高の喜びです。ご参加くださり、誠にありがとうございました。

 

 またここまで、長文をお読みいただきありがとうございました。皆さまにできるだけ多くの時間をヘリンガー夫妻と過ごしていただきたいとの思いから、ワークショップ中は私からご挨拶する時間もほとんど取らず失礼いたしました。

 

 これからもDVDの販売や、国内での定期的なワークショップの開催を行っていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

 

 

アナロジック クリエーション

 

代表  井上 慎介